トゥール・ドゥ・ラ・ヴァノワーズ Tour de la Vanoise


6日目 7月11日 晴れ



地点 標高差
ラ・レス小屋 Refuge de la Leisse 2487m -
クロエ・ヴィ橋の分岐 Pont de Croé-Vie 2098m 389m
ヴァノワーズのコル Col de la Vanoise 2517m 419m
プラロニャン pralognan 1422m 1095m
歩行距離 約17.5km
所要時間 約6時間50分
(休憩、昼食を含む)







朝、風がテントを打つ音で目を覚ました。半分しか起きてない頭で考えたことは「濡れたテントをザックに詰めなくてすむなぁ」だった。濡れたテントと乾いたテントでは格段にザックの重さが違う。いつもだったらぐずぐずしてシュラフから這い出せずにいるのに、今日がこの山行の最終日だと思うと1分でも山の景色を長く眺めたくてすぐにテントから出た。山は昨日と同じように鎮座してるし、空は雲ひとつなく晴れ渡っていた。

小屋に降りて行き食堂棟に入ると、私たちとは反対に、トゥール・ドゥ・ラ・ヴァノワーズを始めたばかりの3グループの人たちはすっかり支度も出来上がり朝食を待っていた。小屋の管理人さんはどうやら昨晩の夕食の片付けが済んだ後急いで山を下り、一番近いTVのある家なのか山小屋なのか牧場へとサッカー・ワールドカップの決勝、仏対伊を観戦しに行き、そして夜道をまた戻ってきたらしい。すごいパワー!たまにフランス人でもサッカーの熱狂的ファンがいるが、山の中で会うとは!そして今、食堂の真ん中に立って身振り手振りを交えてジダンがどうシュートしたとか、どうして反則になったとか飛んだり跳ねたりして説明している。微笑ましい朝の食堂の光景だった。ようやく食堂が静かになった頃、パンキーが降りてきて朝食にする。最終日だからといってあまりゆっくりもしていられない。今日はヴァノワーズのコルを超えて、そこからプラロニャンの町までの長い下りが待っている。私たちも手早く支度をし、8時出発。

気持ちのいい青空が広がる
さようなら、レス小屋、そしてサッカー好き管理人さん

小屋からは先ずV字の谷底に下って、両脇を山々に挟まれた谷の回廊を進んでいく。山の表情は本当に天気によって違ってくるし、それによって足取りも変わる。この道は前方が開けていてとても気持ちがいい。右手にはヴァノワーズの秀峰グランド・カッス3855mやモット3653mが圧倒的な高さでそびえ、左手には比較的緩やかな緑で覆われた山々がドーンと動かずにいる。時折まだしっかりと雪を溜めこんだ雪渓が現れ、それを横切っていく。静寂が広がっているのだけれど、よく耳を澄ますと落石の音、雪渓の溶ける音、マーモットの声がする。山の音だ。木材を担いだ男の人2人とすれ違った。多分レス小屋の修理のためだろう。
真っ直ぐにひたすら真っ直ぐに進むと分岐点のクロエ・ヴィ橋に達する。

左手には緑の山々
右手には荒々しい山々
時々現れる雪渓
この石橋がヴァノワーズのコルへ登る分岐点

i石橋を渡るとヴァノワーズのコルへの登りに入る。登りといっても標高差で約400mなので楽しむ余裕がある。そして登りの途中でとうとう出会ったのである、野生山羊のブクタンに。その出会いは本当に突然だった。もし映画の「もののけ姫」を見たことのある人だったら覚えているかもしれないが、サンが森の中でしし神様に出会ったときのように、音もなく私の前方に現れて、私を一瞥して、そして行ってしまった。すぐに後を追いかけたがその姿は見つけられなかった。しばらくそこでじっと待っていたがやはり2度と見ることはできなかった。一般にはブクタンは早朝の陽が昇る前に餌を探して行動し、陽が高くなってからは高い岩場でじっとしているという。だからこうして登山道のそばで見かけられたことはめずらしいのかもしれない。その時は写真に収められず残念だと思ったが、こうした幻のような瞬間はそのまま思い出の中にとっておくだけでいいのかもしれないと考え直した。だがもちろんそれからのコルまでの道はペースを落としてブクタン探しの登り道となった。

コルに登る途中で歩いてきた道を振り返る
右奥にそびえているのがモット3653m
グランド・カッス3855mの南壁
カモシカはよく見かける
グランド・カッスの西壁を眺めながら
コルにあるヴァノワーズ小屋が見えてきた

11時過ぎにはヴァノワーズ小屋に到着、ここで少し早いが昼食とする。小屋でビールを注文して乾杯。座った小屋のテラスの周りにはマーモットが忙しそうに穴から出入りし、目に前にはボリュームあるグランド・カッスの雄姿、反対側には帽子をかぶせたようなヴァノワーズ氷河、そして何といっても抜けるような青空この環境でビールがおいしくない訳がない。
充分に昼休みを満喫し、去りがたい気持ちを抑えていよいよ最後のプラロニャンへの下りに向かう。小屋から少し行った所でおじさんが双眼鏡を覗き込んでいる。何を見ているのか尋ねたところ、何と岸壁に3頭のブクタンがいるという。双眼鏡を貸してもらい覗き込むと・・・いるいる、まったく岩肌と同じ色をしたブクタンが歩いている。歩いているといったって平原ではないのだ。首を90度上に傾けて見るような瓦礫の様な山の中腹だ。ブクタンとは本来こういうところにいるものなのだ。ここヴァノワーズでは悠然とかまえたブクタンが人間を見下ろしているのだ。

乾杯!2杯飲んでしまった
つまみは生ハム
グランド・カッスの雄姿
この岩山の上3分の1位のところにブクタンがいた
プラロニャンへの下りに入る

天気がいいせいか、プラロニャンから登ってくるハイカーが多かった。こんな快晴の日に最終日を迎えられて私たちも大満足だ。この時期は水量も少ない湖を通り、滝の脇で涼み、途中の山小屋のテラスでのビールの誘惑にも負けず、ひたすらプラロニャンに向かって下る。

湖も水量が少ない
湖の真ん中を貫く渡石
滝の脇でひと涼み
再びプラロニャンの町へ

プラロニャンへ3時前に到着。こういうときは温泉にでも入ってリラックスしたいところだが、無いものを考えても仕方がない。車を回収してプラロニャンを後にする。

歩けば歩くほど風景が変わり、見渡せば見渡すほど山の自然の全てが目に入ってくる。空の青、雪の白、岩のグレーや茶、草木の緑、高山植物の黄、紫、赤・・・、ヴァノワーズは色も溢れている。それがヴァノワーズの良さだ。こんな大きな山群を、1歩1歩せっせと歩いて一周する。ピークハント登山とは違った達成感と喜びがある。またいつの日か違ったルートを歩きにヴァノワーズに戻ってくるのだろうな。



山行後記
私はテント泊縦走は大好きなのですが、ひとつ悩み事がありました。それは何といってもシュラフで寝るときに尾てい骨と骨盤がとにかく痛いこと。寒さはあまり苦になりませんが、これは苦痛でした。そこでネットで見てみたら皆さんマット(エア・マット)なるものを使っているではありませんか。次回は絶対にこのマットを買おうと決めました。やはりネットは便利ですね。



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